北窯・松田米司さんの工房では、火曜日と水曜日のお昼は、お弟子さんが当番制で自炊を行っている。メニューはその日ある食材を見て担当者が考案。工房に入った当初は料理が苦手な人も、日に日に上達していくようで、この日もおいしそうなサバ味噌や野菜の煮込み料理が食卓に並んだ。
盛られたうつわは、すべて自分たちが手がけたもの。「みんな上手ですよ。料理をやることは弟子入りの条件。自分たちが作ったうつわを使ってみることで学ぶことも多いですよ」とにこやかに話す米司さん。この試みは工房を構えてすぐの頃からやり始め、20年近く継続しているという。この日も囲炉裏を囲みながら、引っ越し先の家でどんな照明器具を付けたらいいか、など和やかな会話が飛び交った。30歳近く離れた親方との会話のキャッチボールは、見ているこちらもうらやましくなった。「たわいもない会話ですが、モノ作りの現場はコミュニケーションが大切。料理が苦手な子もいれば、食べるのが遅い子もいます。人に合わせていくことはストレスがたまるかもしれませんが、共同作業の場では、お互いを知って、バランスを見ながら、共有していくことが大切です」。ご飯を食べる姿を見れば、人柄が分かるという米司さんは、「ここで生活の基礎を学んで、自活できるようになってほしい」と話す。自炊を行うのは、いずれは工房を卒業して行く弟子たちの将来を考えての親心でもあった。